紙の海にぞ溺るる

或は、分け入つても分け入つても本の山

ついでの収穫

 所用で神保町へ行くと、この日はガラクタ市なる古書展が催されていた。半年に1回しか開催されない、レア度の高めな即売会である。近代文学の本がまずまず拾えるとは認識していたが、なかなか覗く機会がなく、今日が初参戦となった*1

 といっても2日目であるからして、目玉商品はすでに捌けていると考えるのが自然だろう。他方、そんな中でしぶとく棚を見つめ、「めっけもの」を発掘するのが私の流儀であるというのも、また事実である。

 で、2冊抜き取る。

 

式場隆三郎『洗濯療法』(オリオン社) 昭35年5月20日, 初カバ, 片柳忠男装 400円

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 式場の本はなんとなく集めていて、このタイトルはすでに100部限定の布装版を所有していた。それでも普通版(?)を拾ったのは、ひとつには署名が一応あったこと、いまひとつには面白い挟み込みがあったことが理由として挙げられる。

 「付録」は2枚で、「式場博士をかこむ会」と「守田勘弥後援会の趣旨」とである。前者はどうやら本書の刊行記念と式場の還暦祝いとを兼ねた会だったようで、「発起人並に出席者名」には600人以上の名前がずらっと並んでいて、この紙自体約80cmもの長さとなっている。式場は交遊も広かったから、この名簿には有名人の名前もけっこう多い。水谷隼大下宇陀児のような探偵作家はまだわかるが、田中角栄なんて名前も挙がっているのはちょっと驚きだった(というか誰と交流があったのかは、あまり把握できていない)。資料として面白いのだけども、サイズがサイズなのでスキャンがしにくく、どうしたものかと思っている。

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 2枚目の「守田勘弥~」は、式場が「世話人代表」として後援者を募ったものらしい。守田勘弥(14代目?)はよく知らないので今後調べたいところだ。裏面が大黒ブランデーの広告になっているのも面白いと思う。

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②野口存弥『沖野岩三郎』(踏青社)平元年2月28日初カバ帯 300円

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 沖野岩三郎も、個人的に興味のある作家だ。現代において無名というだけにとどまらず、どのような活動をしたのかいまひとつつかめない人物だと思っている。沖野の評伝は、これと『大正霊戦記』くらいしか存在しないのではないか*2。で、この本は、たぶん持っていなかったと思うのだが、正直言って自信がない。まあ、よしんば持っていたとしても、定価4500円の本書を、完本でこれだけ安く手に入れられる機会は他にないだろうと買っておいた。

 

 2冊とはいえなかなかの収穫だと思う。2日目でも棚はけっこう面白かったから、初日にちゃんと行っていればもっと抱え込んでしまったかもしれない。(と、考えれば行かなくて正解ともいえる)

 

 それから古書モールでこんなものを買ったので、ついでに載せておく。

尾崎士郎『新編坊ちゃん 下巻』(山田書店) 昭28年8月5日カバ帯, 鈴木信太郎装 100円

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 『坊っちゃん』関連本とか、題名をパロったような本は手の届く範囲で集めているのだが、情けないことにこの本は知らなかった。残念ながら上巻は見当たらなかったものの、まあ読むかどうかわからないのでとりあえずよしとする。

 ざっと見た感じ、『坊っちゃん』のその後を描いたタイプのパロディ本らしい。『猫』のパロディは比較的まとめられているようだが、こちらはそこまで、という印象。春陽文庫あたりでも実は何件かあったりする。が、タイトルが似ているからといって別に誰も集めたりしないのだろう。(ソブエさんとか、もしかしたらやっているかも)

 これは昭和28年の版だが、戦前の版*3もあるようなので、今後の探求書となるだろう。

 

大正霊戦記―大逆事件異聞

大正霊戦記―大逆事件異聞

 

*1:確か前回の開催時は天候が著しく悪かったため、泣く泣く断念したような記憶がある。

*2:論文は寡数あったりするのだが、紀要はなかなか読む機会が持てなくて困る。

*3:「日本の古本屋」で検索したところ、昭和14年版は『新編坊ちゃん』と原作に同じく促音が入っているようだ。たぶん単なる表記ゆれで大きな意味はなかろうが、こういうのも細かくチェックしたい。