紙の海にぞ溺るる

或は、分け入つても分け入つても本の山

量の年から質の年へ

 下等遊民たる私にも、他の方と同様に新年が来た。といって暦とは一切関係を断った生活をしているため、感慨らしい感慨はないのだが、まあ区切れでもあるしと2018年で買った本のリストを整理している。

 昨年の7月に、「上半期の5冊」と題して特に優れた収穫を公表したことがあった。その時はなんとなく不公平な気がして、署名本を除くことにしたのだったが、今回、「下半期の5冊」の選出にあたった私は、そのルールをあっさり破ることとした。あまりにも良い署名本が多いので、署名本の部から5冊、それ以外から5冊という、結果的にはお題と全く外れたランキングになってしまったのだが、所詮は嘴の黄色いコレクターの自己満足であるから、ご海容されたい。

 

 まずは非署名本のトップ5である。

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志賀直哉『夜の光』6版布表紙

 本書については、また調査を重ねてから改めて報告できたらと思う。重版をコツコツ集めることでしか、こういうのは解決できないという好例である。ひとつ小耳にはさんだところでは、6版は従来の紙表紙と布表紙との2パターンがあるようだ。

 

志賀直哉『荒絹』初版カバー

 ものすごく珍しい本でもないだろうが、志賀直哉コレクターを自称している以上、これは早めに手に入れたかったところである。最近蔵書を掘り返したら重版函付がでてきたけれども、やはり重版から函装となるのだろうか。好きな作家と公言しておきながら、勉強不足甚だしい。

 

ホトトギス9巻揃合本

 夏目漱石の「坊っちゃん」をこよなく愛しているため、やはり『鶉籠』カバー付と初出のホトトギスはどうしても欲しかった。これとて合本であるが、普通に買えば「坊っちゃん」の号だけで優に1万円は超えるので、資料的にもお買い得であったと思う。

 

式場隆三郎二笑亭綺譚』B版初版函

 これもずっと前から好きな本で、B版じたいは再版を1年くらい前に入手していた。思いがけず発見したこの初版は、再版との異同が興味深く、安価であったことも相まって印象的な買い物である。

 

⑤『十六人集』初版函

 内容ももちろん素晴らしいのだが、これは大阪に遠征に赴いたときに入手した、私にとっては思い出の1冊である。本を「読み物」ではなく「コレクション」と見なしている私は、やはりこういう背景の由来とか物語を大切にしてしまう。考えてみれば、署名本・献呈本を愛する気持ちもそういうところに通じているのではないかと思う。

 

 あまりパッとしないランキングであることは否定できないが、個人的な趣味というのは得てしてそういうものではないか。特に今回は、好きな作家でありながらほとんど進展を見せていなかった志賀直哉本のいいところが買えてよかった。

 

 で、お次は本命の署名本。こちらはほとんど本ブログで語りつくした感があるので、あまり言及しないこととする。

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志賀直哉『暗夜行路』座右宝版カバー誂帙署名

佐藤春夫『閑談半日』初版函 神代種亮宛献呈署名

小宮豊隆訳『父』帯元パラ 内田百閒宛献呈署名

徳田秋声『町の踊り場』特製100部カバー 木内高音宛献呈署名

石川達三『蒼氓』6版 水島治男宛献呈本

 

 このうち、フソウ目録で買った④については、まだここで公開していなかったはずだ。

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 改造社の文芸復興叢書の1冊なのだが、特製版と明記されている。通常版を持っていないので比較できないけれども、部数を考えるとすべてに署名が入っていても不思議ではない(第一、扉の枠組みからして意味深である)。さらにこの叢書、背の部分がいわゆる窓カバーになっているのとそうでないのとがあるようだが、単純にタイトルによるのか、刊行時期によるのか、これもわからない。本書の書誌的情報については、稿を改めたいと思う。

 

 いい本をたくさん買うことができて望外に嬉しかった一方、掘り出すごとに謎が増えていくという古書の世界の深淵を覗いたことで愕然たる心持も抱えている。とかく量を買うことによって良書に肉薄してゆくスタンスを取り続けてきた私だが、さすがに保管場所がなくなってきた。本年、2019年はバカ買いを控えることとし、厳選に厳選を重ねて漁書に励んでゆきたい。

 

 ところで、2018年を通じて購入した冊数を数えたところ814冊という結果になった。さすがにやりすぎなので、今年は300冊以内を目標に絞っていく所存である。