雪を避けつつ
夕方から雪の予報が見え隠れしており、となれば不要不急の外出は避けるというのが、凍結に不慣れな関東人にとっては賢明な判断であろう。しかしながら私こと下等遊民は、この頃の引きこもり生活にやうやう嫌気がさしつつあったので、ちょっと近文に出掛けておくことにした。
いまの特別展は、「こんな写真があるなんて!―いま見つめ直す文学の新風景」と、「生誕100年記念 林忠彦写真文学展 文士の時代―貌とことば」とのふたつである。どちらかというと後者の林忠彦が見ておきたかった。
前者では主に出版記念会の写真にフォーカスがあてられていたが、中でも原民喜家族の写真が興味深い。関係者から館にアルバムが寄贈されたとのことで、ある研究者が遺族の元気なうちに聞き取り調査を行い、誰が写ったものかがほぼ解明されているというのがよい。
また後者では、林忠彦のオリジナルプリントが見られて面白かった。今でも手に入る書籍で、多くの写真を見ることこそできるが、それらは当然判型に合わせた編集が加えられていることが多い。元の写真、つまり林が意図したフレームというものを見ると、やはりこちらの方がいいような気がしてくるから不思議だ。初公開の稲垣足穂のショットもあり、足を運んでおいて損はないと思う。
* * * *
で、そのあとは下北沢へ。おなじみのホンキチで均一をあさる。
①鶯渓散史『美文断錦』(求光閣)明43年6月20日26版 100円
別段内容に興味があったわけではない。編者も知らないし、小汚い文庫大の本だったが、なんとなく気になって手に取ると、巻末に面白い広告が刷られていた。
中谷桑実『吾輩は蠶である』は、漱石の『猫』のパロディとして比較的知られた本である。実は以前、カバ欠のものがヤフオクに出ているのを発見したことがあるのだが、うっかり入札しそびれ臍を噛む思いをしたことがあって、まあ広告が入っているからといってどうということはないけれども、懐かしさから買ってみた次第。他のパロディ本から察するに、たぶん『蠶』とて読んで面白いものではあるまい。本自体はあんまり見かけないけれども、本文だけなら近デジで読むことができる。
続けてビビビでもちょっと拾った後は、初めて「Claris」に訪うた。実は「日本の古本屋」で欲しい本がヒットしていて、どうせなら店頭で見てから買おうと思っていたのだった。
②Heimann, Jim(2001). California Crazy & Beyond. Chronicle Books. 1000円
予てから気になっていた本である*1。アメリカのロードサイドの店には変わった意匠のものが多くみられ、表紙にあるのもそうだが、日本では考えられないほど巨大で思い切ったデザインが楽しい。写真の収録がいかほどあるかが気になっていて、いちおう確認してからの購入を希望していたわけだが、期待以上に充実していた。英語もそんなに難しくないようだし、ちゃんと読めば内容も面白そうである。
California Crazy: American Pop Architecture
- 作者: Jim Heimann
- 出版社/メーカー: Taschen America Llc
- 発売日: 2018/07/08
- メディア: ハードカバー
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③『早稲田文学 2018年初夏号』(筑摩書房)平30年4月26日 300円
井伏鱒二の幻の作品が発見された、というのは一般紙でも報道されたくらいの一大ニュースだったわけだが、不肖私はそれを特集した号を買い忘れていた。冷静に定価を見るとけっこうな額だし、きれいなのが安く入手できて嬉しい。
中を確認してみると、書誌情報も詳しく書かれているし、作品についても一通り掲載されているようだ。つまり完全に好事家向けというわけで、これは持っとかなくてはいけないと思う。
④颯手達治『若さま犯科帳』(春陽文庫)昭50年3月25日初カバー献呈署名 500円
春陽文庫についてはS林堂から出されたデータ集を読み、欲しいところはすでに揃えてある*2。このレーベルにおける現代作家は名前も知らないところが多いし、そも今読んで面白いか、読む必要があるかと言われても答えるすべをもっていない。颯手は辛うじて名前を知っていたし、あの春陽文庫の署名入りというのも1冊くらい持っていていいだろうと思って買ったもの。
Clarisは、デザインとか芸術系の古書が多いと聞き及んではいたが、意外にも私好みの傾向なので、棚を見てゆくのが実に楽しかった。上に挙げた以外にも登美彦氏の署名本を購入し、図らずして大収穫を得られたことだった。整然とした店内も過ごしやすく、下北沢にあって必ず行くべき店がひとつ増えたというわけである。