紙の海にぞ溺るる

或は、分け入つても分け入つても本の山

7月の後悔

 なかなか熱気の訪れない7月であった。七夕古書入札会とかシュミテンとかの恒例行事に加え、池袋にも行ったものだから、散財に次ぐ散財である*1

 そんな中にあって、実は7月冒頭、ネットに相次いで良品が出品された。どちらも近代文学コレクターの端くれとしては持っておくべき参考書で、且つこの値段なら即決で買ってもよいだろうというところであった。それが痛恨となり、振り返ってみれば7月の1ヶ月で10万円分も本を購入してしまっているのだった。月初めの出来事だからそれ以降を摂生に努めればよかったものを、と今になって思う次第である。

 

①橘弘一郎『谷崎潤一郎先生著書目録 第壱巻』(ギャラリー吾八)昭39年7月24日帙限234部記番外署名落款献呈署名箋貼付附録付

 ――――『谷崎潤一郎先生著書目録 第弐巻』(ギャラリー吾八)昭40年4月8日帙限234部記番外署名落款献呈箋附録付

 ――――『谷崎潤一郎先生著書目録 第参巻』(ギャラリー吾八)昭41年1月9日帙限234部記番外署名落款献呈箋附録・愛読者カード付

 ――――『谷崎潤一郎先生著書目録 別巻』(ギャラリー吾八)昭41年10月10日限234部記番外署名落款献呈箋附録付 9699円

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 谷崎の書誌としては決定版であろう。大半はモノクロながら後版までのほとんどが写真入りで紹介されている。また、外装についても著者が確認したものについてはきっちり記載されているのが良い。「おそらく函」と書いていて、後の巻で「あれはカバーと判明した」とあったりするので、参照する際には注意が必要だが、まあこのあたりは昨今のネット時代、調べる方法はいくらでもあるだろう。

 ヤフオクで某古書店のアカウントから購入したのだが、届いてみると商品説明欄にない署名箋が張り付けてあった。

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 あの中村光夫と考えて間違いなかろう。このセットはどれも署名入りのはずだから、あえて「献呈署名」とまで掲載しなかったのかもしれないが、嬉しいオマケであった。

 ところでこの本、先日の七夕に出品されていたものは、4冊を覆う形のビニールカバーがあり、その上から緑の函、という外装であった。が、今回入手したこれは1巻から3巻にはそれぞれボール紙の帙がつき、3巻までが帙ごと件の緑函に入っていて、4巻目は裸ではみ出している。緑函は同じものだが、帙の厚み分だけ4冊目が格納できないということである。無記番だとか献呈用だとか、そのあたりが関わっているのかもしれないので、こんど研究者の方にうかがってみるとしよう。

 

川島幸希責任編集/東原武文編集協力『初版本 創刊号』(人魚書房)平19年7月30日限300部

 同『初版本 第2号』(人魚書房)平19年12月31日限300部

 同『初版本 第3号』(人魚書房)平20年6月30日限300部

 同『初版本 終刊号』(人魚書房)平20年12月31日限300部 19508円

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 私のような若輩コレクターにとっては伝説の雑誌である。川島幸希氏が編集し、有数のコレクターが寄り集まって各々の得意とする古書話に花を咲かせた、とことん趣味一辺倒の雑誌だ。

 全4冊ながら揃いではなかなか見かけず、かつて10万円で取引されたことがあるとかいう話だが、背ヤケあるとはいっても全巻セットで2万というのはちょうどいい感じと思う。今ヤフオクに出品されている、最終巻欠で4万ちょいというのはさすがに無理があろう。

 川島幸希氏の著作の多くは古書通信の連載に加筆したものであるから、教科書として参照する分にはひとまずコピーで事足りる*2。しかしこの4冊に収録されているのはどれも書下ろしで、だからこそ待望の入手だったわけだ。

 実はこの雑誌、端本で2巻と4巻とをすでに架蔵していて、すなわち2冊分ダブったことになるが、これはまあどうとでも処理できよう。1冊5千円くらいなら買い手もつくと見込んでいるが果たして。

 

 

 と、いう2件の購入で合計3万円。通常の古書展換算で1.5回分といったところか。まあ8月中は大きなイベントもないから、どうにか暮らしてはいけそうだが。

*1:むろん、七夕では落札に至らなかったので出費にはカウントされない。

*2:具体的な購入価格とか、単行本でしか読めない情報もあるにはあるのだが、だいたい1冊5万円くらいなのでオイソレと購えない。