紙の海にぞ溺るる

或は、分け入つても分け入つても本の山

台風一過

 ここ2日ほどは暴風雨を警戒してロクに出かけられなかった。といって、特段外出の予定があるでもないが、それでも自由が利かないことそれ自体にフラストレーションを感じる。

 

 思ったほど台風の影響を受けなかった関東。ようやっと雨も収まったので行きつけのS林堂へ。ここに迷い込むとたいてい何冊も抱えてしまうし、長話で明らかな業務妨害をしてしまい恐縮なのだが、その分たくさん勉強させていただけるのが楽しいのでしょっちゅう来てしまう。

 今日もまたけっこう買い込んだうちの数冊載せておく。

 

阿川弘之『黒い坊ちゃん』講談社)昭44年2月28日初カバ, 宮田武彦装 100円

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 これも今日まで知らなかった『坊っちゃん』パロディ本だ。パラっと見た感じ、大学生の人間関係アレコレを描いているようで、「赤シャツを着た」云々と、本家(?)を意識したらしい表現も見られる。

 アマゾンなんかを見ると集英社の元版しか登録されておらず、それも妙な高値がついているが、まあいわゆる「バカ値」だろう。

 

芥川龍之介塩尻清市訳『Kappa』(北星堂)昭27年7月25日3版カバー 100円

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 どうだろう、芥川はそこまで熱心にやっていないから珍しいのかどうかは知らないが、始めてみた本であった。カバーもついているし、重版とはいえ状態もまあまあだと思う。

 内容はまあ『河童』なのだが、英語話者への配慮として芥川のひととなりと河童の伝承とが簡単に解説されているのも良い。ざっと読んでみると、河童は尻から「liver」を抜くとあり、これでは「尻子玉」というより「肝」というニュアンスに聞こえるのではないかと思ったりする。

 

庄野潤三『山の上の家』(夏葉社)平30年7月30日新刊初署名 2200円

 正直、庄野潤三は代表作すらちゃんと読んでいない。ので、この本が出たとは知りながらも私の中での優先度はかなり低かった。ところが今日帳場に行くと、寄稿者のひとりであるオカザキさんがいらして「これいい本だよ」なんておっしゃるものだから、そう言われては買ってしまうのが誇るべき蔵書家の性である。オカザキさんのイラスト・署名入りなので署名好きとしては嬉しいし、これを機にきちんと読んでおきたい。冒頭をちょっと見たところ、なかなか好みな感じなのでよかった。

山の上の家―庄野潤三の本

山の上の家―庄野潤三の本

 

 

黒島伝治『浮動する地価』改造社)昭5年7月8日30版, 古賀春江装 1700円

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 これは店内にあった某ツアーさんの棚から拾い上げたもの。「新鋭文学叢書」は、対をなす「新興芸術派叢書」とともに無条件で集めている叢書だが、黒島のこれは所持しているかどうかちょっと記憶が怪しいところだった*1。安いといえば安いものの、激安かというとそうでもないから普段なら見送る逸品である。しかし、これは某ツアーさんのブログにもあった通り、相当の美本であったのだ。背こそちょっとシミがあるけれども、画像のごとく表紙は好印象で、これ以上きれいなのはあんまりないと思ったので購入。

 「新鋭~」よりは「新興~」のほうが珍しい印象があるけれど、この2叢書の装丁が誰の手によるものなのか長いこと知らず、このたびネットでちまちま調べていたら、「新鋭」が古賀春江とわかった。「新興」の方は情報が見当たらないものの、どの資料を参照すればわかるかまでは調べがついたので、もう少し保留とする。

 

[番外]

 本当は新刊で買おうと思っていた以下の本を、古本として見つけてしまったので購入。定価が高い本なので、帯付きでおよそ半額というのが嬉しかったし、内容もぜひ読んでおきたいところであった。

現代文士廿八人 (講談社文芸文庫)

現代文士廿八人 (講談社文芸文庫)

 
麻布襍記-附・自選荷風百句 (中公文庫)
 

 

 ところでこのところ、本を読むいとまがとれずにいる。「貧乏暇なし」とはその通りなのだが、そこまで忙しいというわけではない。たぶんどこかしら疲れがたまっていて気力の方に皺寄せがきているのだろうと思う。夏の暑さにやられたというのもあろうけど、休み休み読み進めないと積読がたまって仕方ない*2

*1:叢書とか作家単位で集めだすと、どれを持っていてどれを持っていないのかうろ覚えになりやすい。リスト化すればよいだけの話なのだが、無精でそれを怠った結果として、有島武郎著作集なども買い足せずにいる現状である。

*2:初版本として買った本の多くはコレクションであって読むためのものではないとはいえ、この頃は読む目的をもって買ったものも多い。