紙の海にぞ溺るる

或は、分け入つても分け入つても本の山

芳年を見る

 下等遊民として古本にまみれた生活を送っていることは言うまでもないが、それだけでは書架が横溢されるばかりで居住空間の確保が危ぶまれてきてしまう。といってアウトドアな趣味があるでもなく、休日はどう過ごしているのかというと、ツイッタ等の情報収集で知り得た博物館や美術館の企画展・特別展に足を運んでいる。

 今日訪うたのは練馬区立美術館*1月岡芳年の回顧展が開かれているのだ。実は先日も太田記念美術館に行って、兄弟弟子たる落合芳幾の展示も見てきたばかりなのだが、一方を見ればいま一方も見たくなるのが人情である。

 で、私は芸術を語る言葉をほとんど知らないので、この展示の魅力を語るには役者不足だ。しかし圧倒的な物量と、あまりにも幅広いジャンルをこうしてまと待った状態で見られる機会はなかなかないのではないかと思う。

 一点、印象的だったのは「英名二十八衆句」より「妲己の於百(だっきのおひゃく)」という作品だ。「英名二十八衆句」は芳幾と芳年とで14点ずつ描いた連作で、すでに知られた歌舞伎等の話に材をとっているようだ。なお、芳年といってイメージする血みどろの作品は、実はこの時期のものに限られるというのが今回の展示の主張の大きいところである。その中で「妲己の於百」が気になったというのは、ここに描かれた幽霊の姿である。やや弱気にも見えるこの怪異、私は一目見て水木しげるの『墓場鬼太郎』の序盤で登場する、幽霊の血を輸血されて幽霊のようになってしまった患者を思い出した。周知のとおり、水木しげるの作品はカメラ雑誌や国内外の芸術からのトレースが散見され、その「元絵」が同人的に研究されているが、これも元絵の一種ではないかと思った。が、その筋のサイトを確認するとすでに当該作品は挙げられており、己のレベルの低さを思い知ったことであった。

 まあそんな小さな気づきはさておいても、発見が多く実に楽しめる展示であった。図録もしっかりしていて出来が良く、うれしい。

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 この手の展示を見ると、ほぼ確実に図録を買うようにしているのだが、実はなかなかしんどい。値段がそこそこ(今回は2500円)というのもあるが、どうしてもサイズが大きいので収納に困るのだ。ものによって判型がまちまちというのも悩ましい問題である。この本にしても、縦がA4サイズのスキャナに収まりきっていない。

 

 帰りに中央線沿いの古書店をぶらぶらして、数点購入してしまった。

①『ちくま文庫解説傑作集』筑摩書房)平18年3月10日 103円

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 欲しかったのを均一で見つけた。これはちくま文庫が20周年を迎えたときに、応募者全員プレゼントとして配布された非売品である。内容としては、ちくま文庫の解説だけを並べたものだが、錚々たるメンバーが集まっていて分量も200頁超。読みごたえは抜群である。

 実は30周年のときにも同様の冊子『ちくま文庫解説傑作集Ⅱ』も発行されていて、当時大学生だった私は買った本の帯についていた応募券を葉書で送り、もらっていたのだった。この度ようやくⅠとⅡが揃ってキリのいい感じになったというわけだ。

 

②板垣鷹穂『建築』(武蔵野美術大学出版局)平成20年10月15日初カバ帯, 白井敬尚装 2000円

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 期せずして大物を買ってしまった。

 板垣は建築とか美術とかの分野での評論で知られているが、これは代表的な著書であろうと思う。いちおう建築分野に興味がある(詳しくはない)ので、こういうのも目を通しておきたかった次第。

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 こういうシンプルな目次が続くと、なんとも読書意欲を誘う。

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 白井氏の装丁も良い。ちょっと高かったが、まあ買ってよかった本ではある。

 

 しかしここでこの買い物は大きい。来月はシュミテンもマドテンもあるのに、これでは保管スペースよりも予算のほうが続かないのではないか。

 

建築

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*1:アクセス方法を調べるまで忘れていたが、以前サヴィニャック展を見に行ったところであった。