紙の海にぞ溺るる

或は、分け入つても分け入つても本の山

復活の訪問

 久しぶりにフソウ事務所へ行った。年が明けてからは初であるから、ずいぶんと無沙汰してしまったことになる。入るとすでに書痴の面々で賑わっていたが、「あれ、復活したの」と、すっかり引退したものと認識されていてちょっと恐縮したことであった。ともあれ、このコミュニティに混ぜていただけているというのは、恐れ多いやら嬉しいやらという心境。ふつうに古書展に通っているだけでは、到底ここまで質の高い蒐集を続けることは出来なかっただろうと思う。

 

永井荷風『新編ふらんす物語(博文館)大4年11月23日初 300円

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 均一の棚を見ていたら発見した。背も表紙も汚れてはいるが、奥付を見ると初版であったので迷わず購入。重版は去年の神保町青展で既に入手していたけれども、初版とは巻末広告が異なっている。本文の異同については知らないが、まあ初版本が手元にあるとやはり嬉しい。

 

②鑓田研一『島崎藤村(新潮社)昭13年6月22日帯, 小寺健吉装 2500円

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 新選純文学叢書の1冊で、同叢書は太宰の『虚構の彷徨/ダス・ゲマイネ』と堀辰雄風立ちぬ』で知られている。本書は著者もタイトルも知らなかったけれども、帯も残っているにしては安いと思って買っておいた。帯のデザインは『虚構の彷徨』と同様である(経験の浅さ故、『風立ちぬ』の帯は見たことがない)。1冊くらい架蔵したいと思っていた叢書なので嬉しいが、買えないとは知りながらもやはり、太宰とかの有名作が欲しいところである。

 巻末の広告のページを見ると、以下に挙げるような挟み込みがあった。

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葉書のような質感の片面印刷で、藤村の『道遠し』の差し込み広告のようだ。同じ新潮社のものだから、刊行時にまとめて挿んであったのだろうか。

 

 そんなわけで今日も雑談がてらたくさん勉強させていただいて、帰り道でも1冊拾う。

 

③ジュディス・ウェクスラー/高山宏訳『人間喜劇*1 十九世紀パリの観相術とカリカチュア(ありな書房)昭62年カバー 300円

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 田村店頭にて、先輩から「バカ安だよ」とお教えいただいたもの。この頃、高山のしごとに興味を持ちだしたのだが、あまりにも著作が広範にわたっているのでどれから手を付けていいものか途方に暮れていたのだった。

 文化史、と総称すればよいのだろうか。学生時代は全くもってそのテの本を読まなかったから、慣れていない分、内容が頭に入りにくい。ちょうど先日買った『記憶術全史』を面白く読み進めているのだが、やはり背景知識(あるいは認識の骨組みのようなもの)の不足を痛感している。

 日日是学習、である*2

*1:このタイトルはバルザックからきているようだが、私がまず連想したのはサロイヤンの方であった。学生の時分、英文学の授業で軽く取り上げられ、ハワイの古本屋で初版本を入手したという、思い入れの深い作品だったからである。

*2:全く関係ないが、「日々是好日」という標語を、私はいつの頃からか「にちにちこれこうにち」と読んでいる。「ひびこれこうじつ」が一番メジャーな読み方だろうか。そもそも日常で発することの稀な言葉であるから、今まで困ったことはないが。