紙の海にぞ溺るる

或は、分け入つても分け入つても本の山

このごろの均一

 忙しさに拍車がかかり、といって何を目指しているわけでもなく、ただ盲目的に動き回っている日々である。

 そんな毎日にあって、疲れをいやそうと思ったときに、よりどころとするのは古本であり古書店であり古書展なのだ。本の並びを眺めているだけで一時は疲労を忘れられるのだから、我ながら狂っている。

 しかしながら金欠には違いないので、専ら漁るのは均一台。そのなかでも、ここ最近で面白いと思った収穫を載せておく。

 

黒井千次『時間』(河出書房)昭44年8月15日カバー献呈署名, 中西夏之装? 100円

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 三鷹は輪転舎から、黒井千次がどうとか思うわけではないけれども、装丁が好みだったので拾い上げる。捲ると署名が入っていたのも、むろん要因のひとつである。

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 装丁者の記載がなく、試しに検索してみると「中西夏之装」としているページを見つけた。が、氏の作風にはもっと抽象的なものが多く、ここまで具象化された作品はパッと見では見当たらない。したがって確定ではないものの、今後気にしておきたい画家である。

 

岡本一平その他『漫画に描いた文豪名作選集』(三弘社)昭13年12月25日 300円

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 正確には均一台ではないが、これは高円寺の即売会で拾ったもの。背に「岡本一平その他」とあるのでもしやと思ったら、やはり例の「坊っちゃん絵物語」が収録されているのだった。

 で、購入した時には気づかなかったが、家に帰って目次を改めて見ると、これはどうやら中央美術社の『現代漫画大観第二編 文芸名作漫画』と全く同じ収録内容らしい*1

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 こういう場合に考えられるパターンは2つで、ひとつは田舎の出版社がパクって出版したもの、いまひとつは出版社が名前を変えて出し直したものだ。ちょっと調べが及んでいないので詳細はいまだ不明だが、元版よりこちらのほうが珍しいような気がするから、まあ嬉しい収穫であった。

 

③藤原安治郎『少年世界数学史』(扶桑書房)昭23年3月1日, 武井武雄装 100円

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 で、今日、ヨミタヤの店頭で勉強用の本を拾ったついでに、武井武雄の装丁がかわいいので買っておいたのがこれ。

 藤原の名前は残念ながら知らないが、目次はなかなかハードだ。「大昔の数」とか「アラビヤ数字の話」とかはわかるけれども、「五進法でする指の掛算」「少年数学者オイレル」とかは本格的な匂いがする。

 元版は戦前にでていたそうで、当時の小学生はこれを読んで数学のリテラシーを高めていたのだろうか。

 

 筆がのったついでに、本ではないがこれも載せておく。

坊っちゃん全編ポストカード 縦組み/横組み, 祖父江慎デザイン 各200円

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 ずいぶん前にツイッターで入手報告を見、どこで手に入るのか調べたが見当のつかなかった一品。最近になって、祖父江慎氏本人のツイートからNADiffのオンラインで販売されていると知った。

 横組みの方は文章をただ続けているだけみたいだが、縦組みはちゃんと組み方まで考慮されているようで、かなり凝った造りだ。底本は雑誌の初出版だろうか。それとも『鶉籠』版か。祖父江氏のことだからこのあたりも拘っているはずだ。

 即購入したいところだったけれども、たがたがポストカードなのに箱モノと同様の送料がかかってしまうので、所用で恵比寿方面へ行ったついでに本店*2へ伺い、ようやっと手に入れることができた。

 さすがに「坊っちゃん案件」だしと、予備用(?)含めて2枚ずつ買っておく。しかしここまで字が細かいとは思わなかった。裸眼ではとても読むことはかなわない。しかしそれでも字の形を保っているというのだから、その繊細な印刷技術が光っている。

*1:らしい、というのは、元本が手元になく参照できないため。目下、蔵書のほとんどは別宅に保安してあるのが不便である。

*2:オフィス街の路地裏、昔ながらのアパートの隣にそびえたつガラス張りのビルであった。グーグルマップなしでは絶対にたどり着けなかったと思う。