紙の海にぞ溺るる

或は、分け入つても分け入つても本の山

風邪ひきのお祭り9日目

 いちおう言っておくと、書痴のはしくれとして3日目の日曜にも古本まつりへは赴いている。飽きもせずにS林堂へ詰め掛け、『少年小説大系』の持っていない号をゴッソリと購い、さすがに持っては帰れぬと配送無料券の恩恵に浴することになった。

 まあそれについて書いても面白くはないので、1週間の休養のち、再びまつりを冷かしに行ったのが今日の話である。なお、風邪の状況としては、未だ治りかけ。

 

巌谷小波『恋の画葉書』(博文館)明38年11月7日, 和田英作画 500円

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 ふだんなら手に取らない本ではあるけれども、S林堂ワゴンを覗いて手ぶらで帰るわけにもゆかず、このあたりは私が買うべきタイトルだろうと買っておく。

 巻頭に「亡尾崎紅葉君の霊前に呈す 小波」と掲げられた本書は、いかにも明治本らしい風情をもっていて、英作の挿絵も綺麗だ。

 

上田敏『詩聖ダンテ』(金港堂)明34年12月28日 500円

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 これも同ワゴンではあまり流行らなさそうな明治本である。やっぱり造りがしっかりしていて、表紙の金がいい雰囲気である。求光閣やら文化社やらによる後版もあるらしいが、これが元版か。

 金港堂の本を買ったのは初めてではないかと思うのだが、つい最近出された『明治出版史上の金港堂』は手に入れてすらいない(というか高くておいそれと購えない)。所持していたところで必ずしも読むわけではないものの、どんどん勉強していかないと、古本者をやっている甲斐もないというものであろう。

 

* * * *

 

 アイショ会では収穫を得られず*1、フソウ事務所へ。

 

川島幸希『近代文学署名本三十選』日本古書通信社)令元年11月3日元パラ限50部赤表紙 20000円

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 川島氏による初版本関連書の新刊。古通の定期購読者に限って抽選販売されたもので、初めは30部発行の予定だったものが、応募多数のため50部に増やされたそうである。色は黒赤青の3種あり、赤と青については、下部に向かって黒いグラデーションがかかっている。

 シンプルな黒も格好良かったが、すでに頂いていた『川島幸希初版本著書目録』も赤い表紙で、揃えておくのも良いかと思い赤を選んだ。後で聞いたところでは、『私がこだわった初版本』の廉価版も赤表紙で同様のグラデーションがかかっているということであった。

 内容は実にシンプルで、川島氏が架蔵している署名本のうち、まさに逸品と言うべきものを1作家につき1冊選び出し、その署名ページをカラー版で印刷してあるだけのものである。これまでの本のように解説や入手経緯などは一切書かれていないが、一級品揃いなのでそれだけでも眼福だ。

 ところでこの2万円というのは、新刊本古本の別を問わず、1冊に出した額としては最高額となった。本書はもう買うしかない本であるが、古書で2万というのもまだ出すのが躊躇われるくらい未熟なコレクターである。

*1:実は1冊、70年代の少年ジャンプを買った。ある作品の単行本未収録と思しき回が掲載されていたためで、これは今後調査しておきたいところだ。