紙の海にぞ溺るる

或は、分け入つても分け入つても本の山

なおも2日目の収穫

 シュミテンでは買いに買った。コレクターの先輩方や某通信編集長などにも「買うねぇ」と声をかけられつつ帰ったのだが、それはそれとしてフソウ事務所にも定期的に伺いたいというものである。

 本を買うため、というよりも、サロン的な事務所に訪い、諸先輩方との歓談の中でお勉強させていただくのが本当に楽しいのだ。

 しかし、その前に性懲りもなくS林堂をのぞき、タムラ店頭とシュミテン2日目とを冷やかしたりしてしまうのだから、まったくどうかしている。

 

小堀杏奴『最終の花』みすず書房)昭26年1月10日第1版献呈署名箋, 小堀四郎装 600円

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 タムラのワゴンからはこれを拾う。小堀杏奴の署名本が600円というのもお手頃で好いが、宛先が野田宇太郎というのも渋くて面白い。

 少し検索しただけだが、以下のブログによれば野田と小堀とは野田主催の「文学散歩」関連で交流があったようだ。

blog.livedoor.jp

blog.livedoor.jp また手元の『本の本』2巻12号、森鴎外特集を見ると、2人とも寄稿している。間接的ながら、こういうところからも交流はうかがい知れよう。

 正直、どちらの作家についてもあまり詳しくは知らない。けれどもやはり、こういう署名本は好きで買ってしまうのである。

 

加藤武雄『幸福の国へ』(新潮社)大11年5月15日 1500円

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 2日目とはいえ、シュミテン会場を覗いてなにも拾わないわけにはゆかない。少し高いが、フソウ棚から目についたこれを買ってみる。

 加藤武雄の小説集ってのは気にしたことなかった。その意味でもいい機会だと思ったのであるが、たぶんこれが雪郎蔵書でなければ買う値段ではなかっただろう。

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 と言ってむろん、だからどうというほどの意義もないのである。

 

尾崎一雄『玄関風呂』春陽堂)昭17年7月5日, 棟方志功

 谷崎精二『離合』(阿蘭陀書房)大6年6月20日, 横井弘三装

 武者小路実篤『女の人の為に』新しき村出版部 曠野社)大11年5月10日3版, 清宮彬装 3冊一括100円

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 今日のフソウ事務所では「いい値段」の本こそ買わなかったものの、特価とも言うべき安い本をいくつか買った。この頃はどんどん「買える」棚が増えてきて嬉しい限りである。

 殊、3冊100円コーナーの充実は、さすがにその安さのために恐ろしく魅力がある。安いならば雑本というかどうでもいい本ばかりかと言うと、御覧の通り全くそんなことはない。外装欠でも汚本でもレッテル貼りでも、業界最安値であることは間違いない。1冊頭33円など、ほとんどタダ同然である。

 このうち一番珍しいのは『離合』だろうと思う。阿蘭陀書房の本で、函欠ながらクロス装がいい感じである。巻末の広告には、時期柄『羅生門』が「最新刊」として表記されていたりして面白いのだが、個人的にオッと思ったのはこれだった。

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 吉井勇『未練』についての広告で、「北原白秋氏装」とある。この本はもう2年近く前に入手しているのだが、表紙が歌麿であることだけわかって、装丁者は判明していなかった。本じたいにそれと記載があったり、最低でもサインや落款が残されていないとこういうのは誰にもわからないわけで、広告といっても侮らずに確認の励行が求められるというわけである。

 

 そして東京堂で購入した以下。

 

☆犬塚潔『三島由紀夫と死んだ男 森田必勝の生涯』秀明大学出版会)令2年11月10日初版第1刷. 真田幸治装 2420円

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 三島由紀夫の「超ウルトラコレクター*1」として知られる犬塚氏による新刊である。今年は三島の没後50年ということで、新潮文庫のデザインは一新され、関連書も続々と出されているが、やはり内容としてはこれがピカイチであろうと思う。

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 犬塚氏と初めてお会いしたとき、三島コレクターというからてっきり本とか原稿を大量に架蔵しているものと思っていて、確かに署名本や自筆資料の所有数もすさまじいのだが、楯の会の制服を10着以上持っていると聞いてほんとうに驚いた。お話しさせていただく中でも、三島関連のことがらについて、実に淀みなくお答えくださったのが印象的である。

 本書は、実際に犬塚氏が行った関係者からの聞き取りや、所蔵する膨大な資料をもとに、三島と森田の自決事件について真実に迫った内容である。パラパラと見るだけでも秘蔵資料満載で、実証的に検証されているのがわかる。冒頭には森田必勝の兄、森田治の序文も寄せられており、本書の由緒正しいことを高らかに示しているようだ。

 現段階で、秀明大学出版会から、谷崎、太宰、三島と、3冊の研究書が矢継ぎ早に出された。そのどれもが古本者の私にとっては刺激的で面白い本である。もちろんそういう意味での「面白さ」があるからこそ、この出版会から出されているわけだが、来年も出版予定があるとのことですごく楽しみである。

*1:某版道氏による表現。