紙の海にぞ溺るる

或は、分け入つても分け入つても本の山

ワクチン後の均一

 ようやっとワクチンを接種した。といってまだ1回目なので、2回目を控えているのが面倒だが、副反応が一切なかったのはなんとなく拍子抜けである。

 打った直後、もし腕が上がらなかったりとか倦怠感に苛まれたりするとしばらく厄介だなと思ったので、打ち終わるやその足で取り置きの本を受け取りにS林堂へ。我ながら病膏肓に入る振る舞いである。

 

徳冨蘆花『不如帰』岩波書店)昭11年9月18日第1刷函 100円

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 『不如帰』と言えば民友社から発行されたベストセラーとしておなじみだが、後版として岩波書店版があるのは知らなかった。調べると復刻もあるらしく、私は初めて見た本だと思うのだが、そんなに気にしているでもなし、あるいはありふれた本なのかもしれない。

 奥付はふつうのものが1ページあって、その裏面には民友社版の版数も記されたページがある。

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この記載と〈今や民友社版は第百九十二版で絶版となつて居り、其倉庫にも一冊の売れ残りも無くなつた〉という徳冨愛子の跋文とを信じると、民友社は192版まで出たようだ。

 なおこの岩波版の冒頭にも「第百版不如帰の巻首に」が収録されている。

 

高山樗牛『瀧口入道』春陽堂)大9年6月5日88版函, 小村雪岱装 100円

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 函背の状態がよく、均一に転がっているものだから初め復刻版かと思ってしまった。(そもそも本書の復刻はないはずだ)

 真田幸治「小村雪岱装幀本雑記①――高山樗牛の縮刷『瀧口入道』」(『古通』令元年10月号)を参照すると、本書の80版までは鰭崎英朋装画で88版から小村雪岱装画になっているようで、してみるに今回入手した88版は確認されている内だと雪岱装に切り替わった最初の版ということになる。

 以前裸を500円で買っていたけれども、状態のよい函までついて100円とは、さすがのS林堂。均一とて侮れない。

 

 この日はとりわけ黒っぽい均一棚で「来るとは思ってなかったけど」と店主はおっしゃっていたが、狙い撃ちされたような気分になりながらあれもこれもと46冊も抜く。帰宅すると腕の筋肉が少し痛いような気がしたが、これはワクチン注射のためか、本の重みのためか。