要る本だけを買いに行く
行きたい特別展があったのだが、昨日は体育の日。忌々しい休日営業のために、博物館は軒並み本日休業であった。このことに気づかぬまま休みをとってしまった私は、寝不足の体を引きずって、取りおいてもらっている本を回収しに行くことにした。
①蜂須賀正氏『鳥の棲む氷の国』(我刊我書房)平30年10月23日カバ限150*1 8500円
刊行前から予約していた本をようやく受け取ることができた。蜂須賀正氏(はちすかまさうじ)というのは簡単に言うと鳥類の研究者で、特にドードーの研究に関してはおそらく世界的に知られた存在である。
私が蜂須賀正氏を知ったのは、同じく我刊我書房から『世界の涯』が出された2015年のことである。そもそもドードーを始めとする絶滅動物、珍獣の類に興味はあった*2ものの、この本を買うかどうかはちょっと考えてしまった。「欲しいならすぐ買えばいいじゃないか」という理窟はその通りで、いまならもちろんそうするだろうが、時は3年前。初版本を本格的に蒐集しだす以前の私にとって、本1冊に7000円という値付けはあまりにも高かった。それでも200部という限定数、凝りに凝った造本、徐々に冊数の減ってゆく残部数の影響を受け、無事購入することとなったのであった。
その後も世の流れとして蜂須賀ブームが続いたのか、蜂須賀正氏の伝記である村上紀史郎『絶滅鳥ドードーを追い求めた男』、『世界の涯』の増補版たる『世界一の珍しい鳥』と出版が相次ぎ、そのたびに喜び勇んで購入してきた。すでに復刻されていた本として平凡社ライブラリーの『南の探検』もあり、これで一通り重要な仕事はさらえるような気がしている。
で、今回のこの本だが、これまでに復刻どころか単行本に収録されてこなかった旅行記と随筆で構成されている。となると、これまでにまとめられてきた諸書籍の間隙を埋めるような位置づけになるのではないか。野生のゴリラを見た最初の日本人、というのが本当かどうかは知らないが、それを信じさせるだけの行動力があったと思わせる内容と言えそうだ。早いところ読まなくては。
* * * *
ともかく一睡もしていないので朦朧としていたが、本を見ると覚醒するのだからゲンキンなものだ。ただし気力はついていかぬようで、どうにも購買意欲がノってこない。こういうときは「必要な本だけ*3」を買いに行こうと思い立ち、中野へ。
②北園克衛『白昼のスカイスクレエパア』(幻戯書房)平28年1月15日初カバ帯, 真田幸治装 2700円
実は持っていなかった本を中古で見つけた。これ以上安く入手するのは、現状ちょっと厳しいのではないだろうか。
北園についてはよく知っているわけではなく、図書館員をしていたこともあるモダニズム系の作家、といった程度の知識しかない。前衛詩についても、面白いとは思うのだが、どう評価してよいのか私の中で今ひとつ定まっておらず、してみるに本書も、私が持っていたところで本来の輝きを見せはしない類いのものかもしれない。けれども一冊くらい読んでおきたかったし、この本にはちょっとしたオマケもついていたので、いい付加価値とともに購入した*4。
③崇山祟『恐怖の口が目女』(リイド社)平30年7月6日初カバ帯イラスト署名 1500円
私は基本的に新刊で漫画を買わない。いっとき手塚治虫に傾倒していた時はブックオフで買いあさったものだったが、いまでは置き場所がないのであきらめている。
この作品自体はツイッターで知った。私のTLには偏ったマンガ好きの出現することが多く、その界隈で少しく話題になっていたものである。ニッチというかよくわからない題名であるけれども、「電脳マヴォ」に掲載された同氏の『わたしの姉はひきこもり』には惹かれていた。中村光が崩れた表現をする際の画風に似ているかもと思いつつ、とにかくテイストが好みだったので、このたび署名本で購入。
「ネオレトロホラー」というのがピンと来ず、まあ安っぽいホラーだろうと読んだのだが、期待は見事に裏切られた。「口裂け女」のような都市伝説から導入されたかと思えば、話は読者の想像の及ばないテンポで発展し、ついに主人公は地球規模での事件に巻き込まれてゆくのだ。ちょっとスカしたセリフ回しが事態の深刻性とずれていて、それがまた面白い。評価としては月並みかもしれないが、サブカル好きの人間には是非に薦めたい一作である。
④呪みちる『顔ビル/真夜中のバスラーメン』(トラッシュ・アップ)平30年8月29日初カバ帯イラスト署名 1512円
呪みちるはたぶん読んだことがないはずと思っていたのだが、目次を見ていたら「劇画狼のエクストリームマンガ学園」のサイトで「七色の脳みそ」を読んでいたのを思い出した。
都市伝説的に奇妙な話題が、不気味な絵柄とともに展開していく。ベタな傾向かもしれないが、これも好みである。例えばピアス穴を扱った話は、あの有名な(むろん科学的には正しくない)逸話に絡めてのものに、独特のひねりが加えられていた。ただグロいだけではない嫌悪感が楽しめる作品だと思う。
図らずもけっこうな出費だが、すぐにでも読みたい(というか漫画はすぐ読んでしまった)本ばかりで嬉しい限りである。
*1:書肆S林堂サイトに「委託部数」として150部と記載されているが、実際には200部くらい刷ったのではないかと思う。
*2:ドードーという鳥を知ったのは、母の蔵書にあったジュニアチャンピオンコース『なぞの怪獣・珍獣を追え』という本でのことだった。シリーズ中でも古書価の高い方だが、他の人気作『もしもの世界』とか『超科学ミステリー』とか、もっと子供に広く読まれるべき名著だと思う。
*3:実は大嘘で、私が購うのは不急不要の本ばかりである。ここで言いたいのは、漫然と古本の山を見に行って、無目的的に漁ることをしない、ということ。
*4:ぶっちゃけると関係者の署名である。刊行記念イベントか何かでなされたものだろうと思うが、古書として流れていると少しむなしい。