紙の海にぞ溺るる

或は、分け入つても分け入つても本の山

横浜に滑り込む

 宣言が出るとかでないとかいった点は、問題の本質ではないと思うのだが、表面的には博物館の休業や古書展の中止というかたちで、我々趣味人が暇を持て余すことになるのだからやりきれない。小市民にとってみれば、どだい詮方のないことである。

 

 そういう状況にあって、いつ行けなくなるか分かったものではない*1ため、いとまが出来たのを好機と神奈川近代文学館へ足を伸ばす。「創刊101年記念展 永遠に『新青年』なるもの」を見ておきたかったのだ。

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 折よくギャラリートーク(といっても2階のホールで行われた)の時刻に入館し、だいたいの筋を頭に入れてから展示を見ることができたのはよかった。どうも展示パネルだけでは細かい逸話が飛ばされているので、たとえば乱歩デビューの経緯あたりはお話を聞いてからでなければあまりピンとこなかったかもしれない。

 雑誌としての『新青年』はせいぜい2冊しか所持していない。基本的に純文学への興味の方が強いから、今回の展示は収集対象ド真ん中ではないとはいえ、『新青年』に掲載された作品だと知らなかったものがずいぶんあった。考えてみれば、このあたりは文学史をやってもあまり触れない部分でもあるわけで、こうやってまとめて勉強できる機会は貴重である。

 

①『永遠に「新青年」なるもの 図録』神奈川近代文学館)令3年3月20日 900円

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 とりあえず買うしかない図録である。カラーは全体の半分くらいだが、原稿もギリギリ読めるサイズで掲載されているのが嬉しい。ここでは書かなかったが、少し前に行ったさいたま文学館の「江戸川乱歩と猟奇耽異」の図録と合わせて、乱歩や探偵小説好きには必携の書となるだろう。

 おまけの新青年バッジもいただき、ちょっと内容が気になった館報も購入して帰路に就いた。

 

*  *  *  *

 

 ついでに吉祥寺でのちょっとした古本買いも記しておく。

 

②『演芸画報 第31年第9号』演芸画報社)昭12年9月1日, 小村雪岱表紙絵 110円

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 ヨミタヤの均一に『演芸画報』がまとまって置いてあった。昭和10年代のものばかりで、時代的には面白そうだと漁っていくと雪岱の表紙絵を見つけた。だから何だということもないのだが、100円ならお買い得だろう。そのほか、「坊っちゃん」掲載号含む数冊を購入。

 

③『改造 第19巻第1号』改造社)昭12年1月1日 1200円

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 こちらは先月末にオープンしたばかりの古本暢気で。中央の棚は大判のディスプレイ用として今後も贅沢に使うつもりなのか、そのあたりはわからないが、わりに近代の本も置いてあるようなので、じっくり見ていくと面白い本も刺さっている。

 古い文芸誌も(たまたまかもしれないが)まとまってあり、掲載作の面白いものが数冊あったが、欲張らずにこれ1冊だけ。太宰治の初出誌がこの値段というのはお買い得だろう。「二十世紀旗手」は「生れて、すみません」の文言が使われたというだけで人気作と目しているのだが、いかがであろうか。

 ともあれ今後も定点観測が欠かせない店である。オープンが午後からなのが個人的にはネックだが、ヨミタヤから暢気というルートは古本者の定番となるだろう。

*1:いぜん川崎市市民ミュージアムで開催されていた「のらくろ展」で、ズルズルと行かずにおいたら、ミュージアムが冠水して長期休業となってしまったことがある。同ミュージアムは未だに再開していないようだ。