紙の海にぞ溺るる

或は、分け入つても分け入つても本の山

ネット

池袋へすごすごと、荷風を買う

池袋三省堂での古本まつりは年に2回開催だったか。ともあれあの吹きっさらしの寒さの中を朝9時とかに並ぶ気力もなく、初日でなければ意味など皆無であろうと思われたが、都心へ出る用事ついでに冷かしのつもりで覗いて来た。 ①高見順『描写のうしろに寝てゐ…

夏目漱石『鶉籠 虞美人草』

今月、という実感すらなかったのだが、マドテンの日取りをすっかり忘れていた。なんと初日の金曜昼頃になってようやく思い至り、ああ、古書展ともずいぶん距離が空いてしまったなぁと痛感したことであった。 いい面ももちろんあって、12月度は現状かなり買っ…

漱石原著/アレキサンデル・スパン訳『独訳 坊っちゃん』

ここ数ヶ月はあまり高い本を買っていないのだが、その中でも一番嬉しかった収穫のひとつがこれである。 ●夏目漱石原著/アレキサンデル・スパン訳『独訳坊っちゃん』(共同出版社)大14年3月15日函帯 3010円 おなじみ「坊っちゃん」のドイツ語訳版である。目…

桜桃忌直前

桜桃忌といえば太宰治の命日(正確には死体の上がった日)だが、数ある文学忌のなかでも多くのファンが史跡に詰め掛けることで有名である。 私は今までに2度、桜桃忌に禅林寺へ足を運んだが、そのどちらも人でごった返していた。中には墓石の目前で群衆に対…

ネットで坊っちゃんほか

周知のとおり、古書展という古書展が中止の憂き目を見ている――もはやこれが古書日誌における枕となりつつあるのが逆説的に可笑しい――わけだが、言うまでもなく下等遊民たる私は、狂ったように本を買い繋いでいる。経済を回すためとの名目が立つのをよいこと…

宣言解除の鉱脈

「日本の古本屋」を見ていると、ある店に特定の傾向を持った蔵書群が入荷したのがわかってくることがある。それが私の蒐集範囲であれば、経済的問題に抵触しない範囲でゴッソリ買い占めることになるのは必定と言えよう。こうした収穫の見込める品ぞろえを、…

巣籠り直前、およびその最中

業者市も自粛の憂き目を見、マドテンも中止となってしまった4月。歴戦の書痴たちの落胆たるや並大抵のものではない。 かくいう私も古書展の不足に日々嘆息を漏らしつつ、パンのための労働ばかりを続けている、――と言いたいところだが、実のところこの下らぬ…

7月の後悔

なかなか熱気の訪れない7月であった。七夕古書入札会とかシュミテンとかの恒例行事に加え、池袋にも行ったものだから、散財に次ぐ散財である*1。 そんな中にあって、実は7月冒頭、ネットに相次いで良品が出品された。どちらも近代文学コレクターの端くれとし…

嵐過ぎて秋の購買

大阪への遠征を果たし、かねての想定以上に優品を購入した私は、今月もう本など買うまいとの決意を固めていた。厳密には、よく行く店に取りおいて頂いている8000円の支払いもあるので気もそぞろであるが、ともかく無駄な出費は控えようと自宅にこもり続けて…

式場隆三郎『肉体の火山』

山雅房 昭22年7月15日 多様な活動が知られている式場隆三郎は、小説まで残している。 本書の目次は以下のとおりである。(括弧内は頁数、旧字は新字に改めた) 春に散りぬ (5) 肉体の火山 (30) 痣のあるヴイナス (44) 日本とらんぷ譚 (68) 赤門恐怖症 (93) …

志賀直哉『暗夜行路』

恥ずかしながら、国語便覧に乗っているような名作でも未読のものはたくさんある。そのうち代表的なものが志賀直哉の『暗夜行路』で、その長さから「まあ読めなくても仕方ないのではないか」という無礼な気持ちを抱かぬでもないのだが、仮にも志賀直哉好きを…