紙の海にぞ溺るる

或は、分け入つても分け入つても本の山

年始の注文品、数題

 更新頻度がかなり落ちてしまったが、本を買う速度は徹底的に加速している。2020年中に購入した冊数は1057冊となり、過去最高数を記録した。平均額が714円、中央値が110円であることからわかる通り、いい本をしっかりした値段で買うというよりも、安物ばかり大量に購っている傾向である。

 蒐集スタイルからして、一般的な古書価の認められない古書群から面白さを見出すことに楽しみを抱いているから、まあある程度は仕方ないことにしても、もう少し冊数を抑えてその分良い本を"良い"値段で買えるようにしていきたいものである。

 

 で、この頃は古書展も休場が続き、注文品を自宅に送付してもらうということが多かった。そのうち数点を書き出しておきたい。

 

①『三島由紀夫選集11 真夏の死』(新潮社)昭33年9月30日函 3500円

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 三島の選集としてはよく見る本であるが、これは収録内容に問題があって回収になった巻。改訂版は同年の11月刊行であるようだ。

 私がこれの存在を知ったのは、初版本を蒐めだす以前のことであった。出久根達郎だか誰だかの古本エッセイで、「他人の原稿が紛れ込んで回収になったとのことだが、筆者は未見である」といった内容だったように思う。

 で、ようやく手に取ることが叶ったわけであるが、正直相場のほどは全く分からない。私の手が届く時点で、安いことは確かであろう。

 当該作品を読んでみると、一目で違和感に気づく。タイトルから検索を巡らせ、最近刊行された三島関連書籍を参照してみると、「紛れ込んだ」ポイントが自ずから明らかになってくるようだ。

 このあたりの詳しい調査は、三島専門の先輩にお任せしたいところである。

 

柳原白蓮/佐々木信綱編『踏絵』(竹柏会出版部)大9年4月15日5版カバー, 竹久夢二装 3000円

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 本自体は数年前の青展で買っていたが、カバー付はけっこう珍しいと思う。さすがに端々がボロく傷んではいるものの、珍しい外装の場合は、付いているかどうかだけが只重要なのである。ただし本冊とデザインは全く同じなので面白みはそれなり。

 しかしこの値段だときれいな重版裸、もしくは状態並下の初版裸くらいの相場じゃないかと思うのだが、別に欲しがる人はいなかったのか、無事当選となった次第。

 

③『高知県昭和期小説名作集12 田中英光高知新聞社)平7年5月25日カバー帯月報西村賢太署名箋付, 森岡さわ装 2000円

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 初めに紙ベースで目録に目を通したときは気づかなかったが、改めてpdfで確認していたところ、西村賢太の署名箋が付いていることに目が留まったので注文。

 で、まあ田中英光の本であれば西村賢太が関わっていても不思議はないわけで、実際に届いたものを確認すると、編者ではなく月報に寄稿、および写真版資料の提供という形でクレジットされているのだった。

 藤澤清造との"馴れ初め"はよく耳にするが、田中英光とのそれは月報の文章で初めて読んだように思う。もしかしたらどこかの随想集に収録されているのかもしれない。西村賢太節が炸裂していて文句なく面白い。ほかに田中光二とかやなせたかしとかも寄稿していて、そちらも必読である。

 しかしこの「高知県昭和期小説名作集」のラインナップは渋い。なにしろ第1巻から第3巻が『田中貢太郎 上中下』なのだ。ほかの作家も(言っちゃあ悪いが)そこまでメジャーとは言えず、あまり部数は出回っていないように思う。

 

 3月のシュミテンも開催は未定である。ひとまずは池袋が開催されるのが楽しみであるが、本を買っていないわけではないので禁断症状が出るほどではない。